ヘリオン・エナジー(Helion Energy、以下ヘリオン社)は多額の資金を集めている核融合ベンチャー企業の一つです。
ヘリオン社の核融合炉は「磁場反転配位(FRC:Field-reversed configuration)」と呼ばれる方式を採用しています。本方式は、ティーエーイー・テクノロジーズ社(TAE Technologies)と同じ方式です。ただし、ティーエーイー・テクノロジーズ社は軽水素(p、陽子1)とホウ素(11B)の核融合反応を利用しているのに対し、ヘリオン社は重水素(D)とヘリウム-3(3He)の反応を採用(下記式)しています。この反応はD-3He反応と呼ばれ、水素原子Hとα粒子(4He)が合成されるため、この反応自体からは放射化(周辺構造物が中性子を浴びて放射性物質になること)の原因となる中性子は出てきません。

FRC方式はトカマク式に比べ弱い磁場で高圧力のプラズマを閉じ込め可能となるため、装置の小型化に寄与するとされています。一方で、磁場がゼロになる特異点が存在し、この点からプラズマが漏れること、FRC容器内の磁場は非線形かつ複雑なダイナミクスを呈し、制御が難しいことが課題とされています。
また、ヘリオン社は、発電技術として蒸気タービンを用いず、核融合反応によって生じたエネルギーの影響でプラズマが膨張し、装置内の磁場が変化することを利用して電流(誘導電流)を発生させる手法を採用しています。この現象は「ファラデーの電磁誘導の法則」(磁束が変化する際、その変化を妨げる方向に起電力が生じる現象)と呼ばれます。
これまでにヘリオン社は第6世代の核融合発電機プロトタイプであるトレンタ(Trenta)により、核融合燃料温度1億度を達成しています。また、16か月連続運転を通じて、核融合システムの主要コンポーネントの寿命と信頼性のテストを実施しました。
ヘリオン社は最近、第7世代プロトタイプであるポラリス(Polaris)の運用を開始しており、このプロトタイプでは、核融合から生成される最初の電力を実証することが期待されています。
既に2028年からMicrosoftへ電力を供給する契約を結んでいるようです。
米IT(情報技術)大手マイクロソフトは10日、核融合発電の米スタートアップ企業ヘリオン・エナジーと2028年からの電力購入契約を締結したと発表した。米メディアによると、核融合の売電契約が交わされるのは世界で初めて。ヘリオンは28年に核融合発電を開始し、その後1年間で出力5万キロワット以上まで高めることを目指す。詳細は明らかにしていないが、一部がマイクロソフトに販売されるもよう。売電契約を交わしたことでヘリオンが開発に失敗すればマイクロソフトに対するペナルティー(違約金)も発生すると報じられた。ヘリオンは将来的には出力100万キロワット級の発電設備の開発を目指している。
何十年間も夢のエネルギーと呼ばれた核融合がこのような短期間で本当に実現するかどうか、少し疑問も残りますが、今後の動向が注目されます。
【参考】
Helion Energy、4億2,500万ドルの大型資金調達を実施 ー 核融合発電の商用化へ加速(XenoSpectrum 2025年1月29日)
2028年に核融合発電が実現?マイクロソフトが米スタートアップと「電力購入契約」を締結(BUSINESS INSIDER 2023年5月11日)
Helion Energy Achieves 100 Million Degrees Celsius Fusion Fuel Temperature and Confirms 16-Month Continuous Operation of Its Fusion Generator Prototype(Helion Energy 2021年6月22日)
Helion Announces $425M Series F Investment to Scale Commercialized Fusion Power(Helion Energy 2025年1月28日)